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「W杯放浪2」第2回 FIFA総会

2 FIFA総会

 5月27日(2002年)。
 KOWOC(W杯韓国組織委員会)に寄る。
 文東厚事務総長、分刻みのスケジュールながら、日本側のチケット対応について聞きたいことがあるとのこと。
 文事務総長は青瓦台(大統領府)で金大中大統領出身の秘書官だった方。もともとは教育省の官僚だが、エリート然とした方ではなく、日本の記者からの答えにくい質問にも、言葉を考え考え、誠実に答えてくれる。
「日韓」「韓日」表記問題で両国組織委の関係がギクシャクしていたころ、大分で日韓事務総長会議が開かれた際に、同じホテルの露天風呂で一緒になった。文字通り、初対面が裸の付き合いだった。湯船の中で韓日共催の機会を両国関係の一層の改善に役立てたいのだと、訥々と話されたのにぼくも共感を覚えた。それ以後、ソウルや事務総長会議などでお会いするたびに互いに情報交換するようになった。
 KOWOCにもイギリスのバイロム社からチケットが到着していないという。日本側も遅れていた第3次販売分のチケット10数万枚が25日の午後に成田に到着したばかりで、開会までに購入者への発送が間に合うかどうか微妙な状態だった。JAWOC(日本組織委員会)の現場では、最初の数試合については、スタジアムでチケットを手渡しすることも考えてチケットカウンターを手配しているとの連絡をもらっていた。
 KOWOCはすべてのスタジアムで当日販売を行う。国内販売分がほぼソールドアウトになった日本と異なり、韓国では韓国戦や準決勝を別にすれば、国内販売分もまだ相当数売れ残っていた。
 韓国側のチケットが売れ残った最大の理由は、JAWOCのチケット販売収益に配慮して、チケットの定価を高額に設定したことにある。
 日本では国内販売分は完売になったのに、なぜ韓国では売れ残っているのかというような素朴な疑問をよく聞かれるので、説明しておくと──。
 所得も物価も日本の5分の1から7分の1の韓国では、もっとも安いグループリーグの「カテゴリー3」でも日本円換算で7000円を超えるチケットというのは、とんでもないぜいたくなチケットなのだ。
 想像してみるといい。月収が20万円の日本のサッカーファンにとっての7000円と、月収が5万円の韓国のサッカーファンにとっての7000円では価値がまったく違うだろう。また韓国の人口が日本の2分の1弱の4700万人程度であることも考え合わせれば、マーケットの規模自体が違うのである。
 ついでに書いておくと、大会運営コストは人件費も物価も日本の5分の1以下ですむわけであるから、韓国のほうが当然のことながらローコストですむ。JAWOCはチケットをほぼ完売しなければ運営収支に破綻が生じるが、KOWOCのほうは70パーセントの入りでも運営収支はトントンになる。
 JAWOCやKOWOCの運営コストだけでなく、たとえば、世界各国の放送局も、メイン局はソウルに置く方式を取っている。放送センターはソウルと横浜の両方に建設されたが、通信費、人件費など、韓国のほうがずっと安上がりになるので、日本のテレビ局以外は、大半がソウルにベースを置いている。横浜に建設した放送センターは結果的には不要だったということ。
 チケットについては、バイロム社が直接、販売した海外販売分のチケットがどの程度、売れ残っているかが、文事務総長もぼくも共通の心配だった。バイロム社の海外販売失敗で、大量の売れ残りチケットが出そうだという連絡は、翌々日、東京からの電話で知ることになる。
 チケット問題については、別項で詳細を報告しよう。

 午後、ソウルIMC(インターナショナル・メディア・センター)で、イッサ・ハヤトウFIFA副会長(アフリカ連盟会長)ら「反ブラッター連合」の4副会長の緊急記者会見が行われた。
 28、29の両日、W杯開催に合わせて、FIFA総会が開かれ、次期会長選挙が行われる。立候補者は、ジョセフ・ブラッター現会長とハヤトウ副会長の2人。
 この数カ月、FIFAの独占エージェントだったISL社の経営破綻以後の経理処理をめぐって、FIFAオフィス内部は大もめにもめてきた。
 FIFAオフィスの実務作業を取り仕切るミッシェル・ゼンルフィネン事務総長がブラッター会長に反旗を翻してハヤトウ陣営に加わり、ブラッター会長が不正な経理操作をしているとの告発レポートを理事会に提出。反ブラッター派の理事たちが緊急理事会でブラッター会長の辞任を迫ったが、ブラッターは総会での再選を期して辞任を拒否。5月初めには、副会長たちがゼンルフィネン・レポートを基に、ブラッター会長をスイスの裁判所に刑事告発するという騒動になっていた。
 記者会見場のセッティングを担当していたFIFA事務局のDに、
「いったいミッシェルはどうするつもりだい?」
 と、聞いた。
「どうするもなにも、放り出されるさ」
 と、Dは首を切る仕草をしながら、こともなげに答えた。
 Dはゼンルフィネンの補佐役(アシスタント・ディレクター)であり、FIFA内部でもブラッター派のスタッフではなかったはずなのだが。
 そうか。選挙の大勢はもうついているということか。
 事務局のスタッフは、選挙結果をとっくに予想している。
 でも、それはなにも不思議なことではなかった。少しでもFIFA内部の政治状況を知っている人間なら、204の加盟FA(協会)の票の大半がブラッターに投じられることに疑問を持つ者はいない。アフリカ連盟の会長であるハヤトウであっても、加盟FAがもっとも多いアフリカ票をまとめることなどできるわけがないのだ。
 理由は簡単。すべての途上国のFAはいつも財政難にある。ブラッターが会長であれば、すべてのFAに対してFIFAが得る巨額のTV放映権収入から100万ドルの補助金が入ってくる(GOALプロジェクト)のである。

 ハヤトウ、レナート・ヨハンソン(ヨーロッパ連盟会長)、鄭夢準(アジア連盟選出副会長)、アントニオ・マタレーゼの4副会長が次々に、なにゆえブラッター体制を打破してFIFA経営を健全化、透明化しなければならないか、理由を述べる。
 記者会見には出ていないが、もうひとりの反ブラッター派の副会長、会計監査委員長でもあるデビッド・ウィルが作成した、1999年から2001年度までの決算処理が粉飾決算であるとする資料などが配られた。ウィルの指摘によれば、FIFAの財政は決算上は黒字とされているが、将来入ってくるべき収入をとっくに使い込んでしまっており、実際は深刻な赤字状態にあるはずだという。
 副会長たちは、会計監査を求めつづけてきたが、ブラッターはそれを無視し、会計監査委員会自体の調査活動を強権発動でストップさせ、その後もブラッター会長が一存ですべてのFIFAの財務処理を続けてきたと糾弾した。
 反ブラッター派の決起集会とでも呼ぶべき記者会見であり、世界各国のサッカー・ジャーナリストたち200人あまりが話を聞いているが、4副会長たちの談話は歯切れのいいものではなかった。
 彼らが指摘するとおり、FIFAが深刻な財政危機にあることは、FIFAの独占エージェントだったISLが破産し(2001年5月)、わずか2カ月まえには、ISLのテレビ放映権を引き継いだキルヒ・メディアまでもが経営破綻してしまった状況を考えれば、そのとおりだろう。
 ブラッター会長は、ISLの経営破綻でFIFAが被る損害は30数億円程度にとどまるだろうとぼくに答えたことがあるが、ISL・キルヒ連合からFIFAが受け取る2002年大会と2006年のテレビ放映権料は総額で28億スイスフラン(契約当時の日本円換算で2300億円)に上るのである。両社が経営破綻前にFIFAに対してどこまで支払うことができたかを考えれば、2006年大会までのテレビ放映権料収入で数百億円単位の誤算が生じるだろうことは、サッカー界の常識といってもいいだろう。
 入ってくるはずの巨額の放映権料が入ってこないのであれば、支出を抑えるしかない。開発途上国のFA(協会)に対して各100万ドルをバラまく「GOALプロジェクト」など、現在のFIFAにはまかなう余裕はないのだが、それをとりやめろと主張すれば、204の議席の大半を占めている途上国の赤字FAは、ハヤトウを支持するわけはない。
 また、FIFAの巨額の財政赤字の立て直しを考えれば、現在の放映権料を維持するしかないわけで、ハヤトウたちの主張から、巨額の放映権料に依存してきたFIFAビジネスの体質そのものを変えたいという新しい展望は見えてこないのである。
 FIFAの財務内容やブラッター体制の問題点をすべて熟知しているゼンルフィネン事務総長がしゃべってくれれば説得力があるのだが、会長選をまえに彼が発言することは選挙結果に影響しすぎるとして、ゼンルフィネンは公に発言することを理事会で封じられ、彼が作成したレポートも公表が禁じられていた。
 この程度の記者会見では、選挙の大勢をひっくり返すものにはならないだろう。
 ハヤトウ陣営にしても、勝てる選挙とは思っていないはずである。
 FIFAの会長選は2回投票制である。第1回投票で一方の候補者が3分の2以上を制すれば、それで決定。ハヤトウ陣営が期待するのは、第1回投票で3分の1以上を獲得して、2回目の投票に持ち込むことにあるはずなのだが、どのような選挙戦略でいるのか、ハヤトウ・サイドのUEFA(ヨーロッパ連盟)のスタッフに確認するのだが、彼らは80票近くまで押さえたというだけで、本当のところはわからない。

 明日からの総会取材のための取材パスは、申請者多数につき発給できないとのメールをもらっていた。
 FIFAにしろ、IOCにしろ、世界的な組織の取材では、取材の最優先権は、まず通信社、新聞社に与えられる。次がその組織が認める専門誌、放送局、オフィシャル・パートナーが発行する出版物の記者という順。フリーランスのジャーナリストは取材枠に余裕があるときだけ、入場を許されるということになる。
 フリーランスという立場である限り、取材を断られるというのはよくあることだ。記者クラブ・システムがあたりまえになっている日本の場合のほうが取材を断られるケースは多い。協会の記者会見でさえ、「今日は記者クラブから要請があった会見ですので」と、クラブ加盟員でない方は遠慮してくださいと、やんわり断られることもある。いまの時代、そういうやり方が適切だとは思わないが、閉鎖された社会というのはそのようにして成立してしまっているのだから仕方がないかと思うことにしている。
 ともかく、取材パスを手に入れないことには話にならない。
 FIFAの担当者には、取材パスを発給してくれるよう、メールで反論してはあったが、直接、担当者をつかまえて交渉である。
「みっともない騒動だから、余分なジャーナリストは入れたくないということなのかい。ブラッター会長には、これまでも機会があるときは、直接、質問してきたし、彼はできるかぎりそれに応じてくれた。総会の現場で当事者の話を聞くことができないというのでは、仕事にならないよ。鄭夢準氏のオフィスに行けば、ハヤトウ派の資料を喜んで渡してくれるだろう。それで記事を書くこともできるだろう。あなたたちがアクレディテーションを出さないということは、それでいいということなのかい」
 FIFAの担当ディレクターは、取材申請リストをめくりながらしばらく考え込んでいたが、
「君の希望はわかった。20分前に会場に来たまえ。欠員が出たら、君にパスを渡そう」
 と、ウェイティング・リストのトップにぼくの名前を書き加えた。
OK。取材パスはこれでなんとかなるだろう。

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