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「W杯放浪2」第3回 FIFA反乱軍、敗北セリ

3「FIFA反乱軍、敗北セリ」──ブラッター一任体制はますます強固に


■ブラッターの圧勝に終わったFIFA会長選
「投票数197。有効票195。無効票2。ブラッター139。イッサ・ハヤトウ58」
 ブラッターの見事なまでに完ぺきな勝利、圧勝だった。
 この得票差をサッカーのゲームに例えれば、「5─0」、あるいは「6─1」くらいの差があっただろうか。ブラッターはハヤトウ(アフリカサッカー連盟会長)、ヨハンソン(ヨーロッパサッカー連盟会長)、鄭夢準(アジアサッカー連盟選出副会長)、ゼンルフィネン(FIFA事務局長)連合軍を一発でたたきのめした。
 日本でどのように報道されていたかは知らないが、ブラッターの勝利は最初から分かっていたことだった。ブラッターがどのように勝つかだけが注目されていた選挙だったといっていいだろう。
 第1回投票で3分の2以上の得票を得て続投を決めてしまうか。不正経理操作疑惑や、選挙運動の過程で巨額の資金が流れたとするスキャンダルの暴露戦術で、ヨーロッパ、アフリカ、アジアの票を集めたとされるハヤトウ陣営が70~80票前後を固めて第2回投票に持ち込み、第2回投票の前にハヤトウの立候補辞退と引き替えに、会長権限の譲歩を迫って何らかのディール(政治的取り引き)が行われるか。それだけが焦点となっていた選挙だった。
 結果は呆気なくブラッターの地滑り的大勝。第1回投票で3分の2を制し、ハヤトウ連合に衝きいるスキさえ与えなかった。ブラッター政権はこれで安泰。反ブラッター派にかつがれたハヤトウ自身は、それでも政治的地位は保つとしても、ヨハンソン、デビッド・ウィル、マタレーゼ、鄭夢準ら反乱軍側の副会長の権威は失墜し、ゼンルフィネン事務局長はFIFAハウスから放逐(ほうちく)されることになるだろう。
「アイ・ドゥー・イット! サッカー・ファミリー・ドゥー・イット!(この勝利はあなた方サッカー・ファミリーの勝利なのだ)」と歓喜の勝利演説に酔うブラッターを、ハヤトウ陣営の選挙参謀を務めたグレン・カートン(元ISLサッカー部長)が会場の片隅で、身じろぎもせず放心したように見詰めている。

■ブラッター勝利の理由
 5月26日(2002年)、27日と、各国協会のデリゲート(代表団)や取材陣が続々とソウル入りした。
 ハヤトウ陣営の5副会長は、27日には、「反ブラッター」の決起集会ともいえる記者会見を行い、FIFAの99年から2001年までの経理処理に、総額で6億9000万スイスフラン(約547億円)の欠損があること、カメルーンの元スター選手ロジェ・ミラに対して、ブラッターから選挙運動の一環として2万5000スイスフラン(約200万円)が支払われたことなどを大々的に発表した。
 ハヤトウ派の選挙戦略は、FIFAの将来的な財政危機を覆い隠しているブラッター体制の問題点やスキャンダルをあらためて暴露し、どちらとも決めかねている協会をひとつでもハヤトウ派に取り込むこと、メディアを見方につけることに主眼を置いていた。28日に行われた臨時総会までは、ハヤトウ陣営も意気軒昂(けんこう)に見えた。
 しかし、日本の記者たちがその記者会見の送稿に追われているころ、メディア・センターのカフェテリアの一角で、FIFAハウスの幹部たちがヨーロッパの有力メディアの記者を個別に呼んでは、巻き返しキャンペーンを始めていた。
「ロジェ・ミラに対する資金提供疑惑は向こうが仕掛けた悪質な罠(わな)なんだ。ライバルの出身国のスター(ハヤトウはカメルーン協会会長)に、わざわざスキャンダルを招く危険性があるようなまねを、だれがするかい。そんなことすれば、墓穴を掘るようなものじゃないか」
「確かにFIFA決算には損失はある。この3年の世界マーケットを見れば、赤字が発生するのは仕方がないだろう。ISLが破たんし、キルヒがああいうことになった。これはブラッターの責任ではないだろう」
「欠損を指摘してブラッターを批判したデビッド・ウィル(FIFA会計検査委員会委員長)が、では清廉潔白だろうか? じゃあ、彼はチケッティングでなぜバイロムなんていう小さな会社を後押ししているのかい。チケットが届かないなんていうトラブルがどうして起きるのかい。ウィルの責任だろう?」

 ブラッター派とハヤトウ派のふたつは双方を互いに中傷し合っていた。
 そして、だれもが知っていた。投票結果は、それでもブラッターが勝つだろうことを。
 ぼくは聞いた。
「どうするんだい? ミッシェル(ゼンルフィネン事務局長)は?」
「放り出されるさ。そうなるしかないだろう」
「政治の世界ではたまにあるじゃないかい。フランスではミッテラン大統領の下でシラクが首相をやった。仕事はやりにくいだろうけど」
「それは無理さ。だれがそんなことを許すかい」
 彼の携帯には、ほかの運動員や有力者からと思われる連絡がたびたび入ってくる。
 どのFA(協会)はOKだという票読みがすでに始まっていた。
「決まりかい?」
「ああ、決まりさ」
「ウィズ・ファースト・ラウンド(第1回投票で)?」
「さあな?」
 と、とぼけるが、「まあ、見てろよ」という口ぶりからは、票固めの決着がほぼつきかけていることをうかがわせた。

 ブラッターの切り札は、放映権収入などの膨大なFIFA収益を、各国FAに100万ドルずつ配給する「GOALプロジェクト」にある。世界204の協会のうち、プロリーグなどが存在しない協会がほとんどなのだ。彼らにとっては、FIFAからの分配金は貴重な収益なのである。実際、あるアフリカの協会の代表は、総会で「われわれはブレドンバター(日々の糧)」がいま必要なのだ」と、ブラッター支持の演説を行った。

■ファンの雲の上で繰りひろげられる権力闘争
 FIFAとはいったい何なのか。サッカー世界とはどんな世界なのか。「サッカー・ファミリー」とはどんな人々なのか。
 この4年あまり、さまよいながら眺めてきた。
 サッカーについて書くことが多くはなったが、ぼく自身はサッカー世界の外の住人である。サッカー・ファンではあるが、「彼ら」が呼ぶ「サッカー・ファミリー」の一員に含まれているという意識を感じたことはない。
 FIFA総会というものを初めてつぶさに見せてもらって、巨大企業の株主総会や農協や漁協の年次総会とそっくりだなあと感心させられた。
「ブラッター会長一任体制」というのは、企業でいえば、会長にのみ代表権がある「代表取締役会長」体制と考えればいいだろう。ほかの副会長は意見を述べることはできても、実は決定権はない。取締役会にあたる常任理事会が会長批判の決定を出しても、総会の議決が優先されるから、総会で信任を取り付けたブラッターへの批判は封じ込まれる。
 組織として、あるいはディシジョン・メーキングのシステムを見る限り、FIFAは前近代的な組織である。「サッカー世界」というのは、実はそのような「サッカー村社会」なのではないだろうか。
 日本のマスコミは「ブラッター独裁体制」やスキャンダル疑惑について批判的な論調で取り上げているのだと思うが、一方は正で、一方は邪というような単純な一元論で片が付く問題ではない。
「サッカー村世界」は、民主主義が支配する世界ではないのだ。自分たちのサッカービジネスの既得権を主張するヨーロッパや南米の「サッカー・ギルド」と、百数十の小サッカー協会が同じ1票を持ち合う閉鎖された特殊な国際社会である。
「スイス時計」のようにこまめに働くと称され、20数年にわたって前会長アベランジェに仕え、70歳を超えてなお権力闘争を軽くこなすことができるほど精力的で、「おしゃべりブラッター」と揶揄(やゆ)されるこの老人は、たったひとりで延々7時間に及ぶ総会を、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語を駆使して取り仕切った。
 年齢的に考えても、ブラッター体制は、この4年で幕を閉じるだろう。その後は、スター性、人望、経営手腕などからいって、たぶんベッケンバウアー(2006年W杯ドイツ大会実行委員長)に引き継がれることになるのだろうが、加盟協会の圧倒的支持を背景に、ブラッターの権限はこれまでどおり維持されるだろう。
 独占エージェントであったISLとキルヒメディアの経営破たんという大問題を抱えた時期に、会長としてそれを乗り越える人材がほかにいたかというと、そんな人物は思い当たらないのだ。ただし、任期の終わりが見えている権力者の威光は、いずれの政治世界でも最後まで続くことはない。今回の選挙戦は、2年後、3年後に再発するであろう新たな権力闘争の前哨戦だったということになるのではないだろうか。
 ブラッターがもし選挙で敗れていたとすると、ハヤトウやヨハンソンが主張していたオープンなFIFA体制が可能になったかもしれない。しかし、FIFAがファン寄りに経営戦略を変える可能性があるかといえば、そんなことはありえない。
 反ブラッター派が指摘したように、FIFAがすでに巨額の財政赤字を抱えているのだとしたら、FIFAは膨大な運営費と赤字を支えるために巨額のマネーと引き替えに、放映権やスポンサー・ライセンシーを売却するしかないのだ。
 帳簿上だけの収支で4年間で約19億スイスフラン(約1500億円)とされるFIFAビジネス。FIFAという巨象は、ブラッターという調教師の鞭(むち)で操られる。しかし、巨象の脚にはさまざまなマーケット利権という太いロープが何十本とからみついており、巨象がいつかもんどりうって倒れる危険性をはらんでいる。
 しかし、そんな話は、やはり雲の上の話でしかない。
 下界の住民は日々のゲームに興奮できれば、それでこと足りているのである。
(「スポナビ」2002年5月30日)

 速報性が必要な原稿は、W杯と関わるようになってから、「スポナビ」というネット・メディアに書くようになった。
 メディアの世界もこの4年ほどで大きく様変わりした。W杯関連の取材でヨーロッパや韓国に出かけたりても、サッカーを専門に書いているわけではないぼくには、発表媒体は限られていたし、取材しているばかりで結局、どこにも書かないということのほうが多かった。
 熱心なサッカーファンが、多いときは毎日、何千人かがアクセスしてくれているらしいので、原稿料は雑誌の原稿料の数分の1だが、まあ、仕方ないかと思いつつ、ネットにも書くことにしている。
そんなわけで、本書には、そのときどきに雑誌やネットに書いたレポートなども挟み込みながら、話を進めていくことになるだろう。

 FIFA会長選は、レポートのとおり、ブラッター会長の圧勝で終わった。
 日本協会はハヤトウ票が70票を超える可能性もあるのではないかと、投票直前まで態度を明確にしなかったが、最終的には「ブラッター」に投票している。
 ミッシェル・ゼンルフィネンはどうするのだろうか。
 また、グレン・カートンはどこで票を読み誤ったのか。
 カートンは、ISLが経営危機に陥ったときに、フットボール部門の責任者としてISLの経営立て直しに奔走した人物である。ISLの経営破綻時には、フランスのヴィヴェンディ・グループにISLの救済買収を持ちかけて動いているのをぼく自身、見かけたことがあった。当時のISL内部には、ヴィヴェンディへの身売り派とFIFAの子会社化派の2派があり、ヴィヴェンディが買収計画から撤退したために、カートンたちはFIFAビジネスから追い出された。この半年あまりの会長選をめぐるゴタゴタは、FIFAビジネス、W杯利権をめぐる旧ISL人脈の内紛の延長戦でもあった。
 第1回投票が行われる直前、カートンに直接、確かめてみた。
「いまも勝つと思っているのかい?」
「ぜったい勝てる。80票まではいくと思っている」
 と、カートンは断言した。
 ハヤトウに入れると約束していたFAが前日までそれだけあったのだろう。しかし、ブラッター優勢の最終情勢で、20前後のFAがブラッター支持に豹変した。それはアフリカ連盟でも、UEFA内部でも起きていたのである。
 ミッシェル・ゼンルフィネンはなぜブラッターに反乱を起こしたのだろうか。彼はFIFAを出ることになるだろうが、それは1億数千万円の年俸を失うことでもある。
 彼自身が将来、ことのいきさつを発表するかどうかはともかく、彼の反乱の理由は推測できなくはない。
 ISLとキルヒメディアの相次ぐ経営破綻で、FIFAは財務処理上、なんらかの辻褄合わせをしなければならなかった。ブラッターの命令で、実務は事務局が行うわけであるが、今回の会長選でブラッターが勝利したとしても、4年後に会長が交代すれば、粉飾経理操作はいずれ白日の下にさらされざるをえないだろう。そのときに責任を問われるのは引退するブラッターだけでなく、実務局のトップとして不正を見過ごしたゼンルフィネン自身も責任を問われることになることを、弁護士出身の彼は承知していたはずだ。
 ゼンルフィネンに会長の不正告発を選択させた理由が、彼の倫理感やFIFA内部の派閥争いのためだけだとは思えない。FIFAビジネスの世界に将来的に生き残るために、ゼンルフィネンはあえて非常手段を選んだはずだったが、ブラッターの政治力のまえにあえなく玉砕した。
 取り囲む記者団の質問になにひとつ答えることなく、ゼンルフィネンは会場を去った。
 総会の会場では、ブラッターを支持した百数十の各国協会の会長たちが、演壇上のブラッターに祝福を述べるために行列している。ブラッターはそのひとりひとりと握手し、抱き合い、頬をすり寄せて礼を述べる。FIFAの帝王ブラッターへの票の朝貢の見返りに、いずれ100万ドルが各FAにお下げ渡しになるだろう。
 FIFAの危機的な財政状況? そんなことはわかっているが、それはブラッターがなんとかするだろう。それを工面するのが会長の仕事なのだから。
 立候補して52票を集めたハヤトウはともかく、ヨハンソン、鄭夢準、ウィル、マタレーゼら反ブラッター派の副会長たちの政治力は大幅に後退することになる。
 こうしてブラッター一任体制はますます強化されることになるのである。

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