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「W杯放浪2」第4回 バイロムの上前をハネたチケット小僧たち

4 バイロムの上前をハネたチケット小僧たち

 5月30日。
 待ちに待った2002年大会もいよいよ開幕である。しかし前夜祭は雨。
 漢江(ハンガン)沿いの公園に集まったソウルのサポーターといっしょに花火やイベントを見物しながら話を聞くつもりだったのだが、雨のなか身動きも取れず盛り上がらない。
 韓国の梅雨入りは日本よりも遅く、まだずっと先である。しかし、1年前のコンフェデ杯のときも、何度も雨にたたられた。雨になれば、埃っぽさや暑さも少しはやわらぐのだが、この湿度の高さはヨーロッパのチームにはこたえることになりそうだ。
「剛の家」に今日から同宿のK君から、ソウルの繁華街南大門のサッカーバーにみんな集まっていますから来ませんかという誘いの電話で南大門に移動する。
 開幕戦に合わせて日本からソウルに飛んで来た熱狂的W杯フリークたち、20人あまりが集まっていた。
 26試合観戦予定のK君、24試合観戦予定のH君、18試合観戦予定のKさんなど、98年フランス大会や「EURO2000」でもいっしょになった「懲りない面々」がやはりソウル入りしている。
 K君は27歳のコンピューターのシステムエンジニア。26試合といえば、ゲーム開催日はすべて観戦することになる。1日に2試合、ダブルヘッダーで観戦する日もあるのだそうで、日韓5往復か6往復になりそうだという。いくらなんでもそこまで休みを取ることはできず、K君はW杯の直前に勤めていた会社を辞めた。
 H君は25歳。外資系のコンサルティング会社に勤めているが、2年前の入社時点から、「2002年の大会中は休みます。休めないなら辞めます」と宣言してきたのだそうで、大会前の3カ月間、休み無しで深夜残業を続けて3人分の仕事をこなしてきたのだそうだ。彼も大会中は3往復か4往復になる予定。
 20試合以上観戦するとなると、チケットの手配だけでも大変である。
 お医者さんでお金持ちのKさんは「プレステージ・チケット」も2セット使っているが、ほかの面々は、ほとんどのゲームを「カテ3(カテゴリー3)」で観る。それでもチケット代だけで40万円近くになる。そのうえ今回は移動費用が大変だ。
「W杯が終わったら、貯金もなにも全部なくなりますね。確実に」
 と笑うK君。
 日本にも4年に1回、貯金をはたいてW杯を追いかけるフリークがとうとう出てきたということだ。
 ただしK君はW杯だけを追いかけているわけではない。日本代表戦はもちろん、Jリーグはひいきのレッズ戦をほぼ毎週、関係ないJ2のゲームまでふくめて年間50試合以上、追いかける。J2の戦力を分析する眼力はたいしたもので、トトは1等はまだ取ってないが、2等、3等は10回近く当てている。

「20数試合も観る!? その連中はどうやってチケットを手に入れたんだ?」
 という疑問を持つ読者もいるかと思うので、前置きが長くなるが、彼らのチケット獲得までの苦労も紹介しておこう。ひょっとしたら、2006年大会のチケット対策の参考になるかもしれない。
 K君はトータルで70枚、H君にいたっては、友人や会社の同僚に頼まれたものも含めて170枚のチケットを調達した。しかし、K君もH君もコネや裏ワザを使ってチケットをゲットしたわけではない。
 一般申し込み、開催地域枠申し込みには、家族、友人、知り合いの名前で数十口ずつ応募した。H君は申し込み用紙書きで腱鞘炎になった。2、3通しか申し込まなかった人よりも、100通、200通と応募した人のほうが当選確率は当然のことながら上がる。K君はJのサポーターズ枠で、日本戦ともう1試合、計4枚をJの半券チケットから抽選する「サポーターズ枠」でも引き当てている。
 もし2006年に望み通りのチケットを確保しようというなら、マメになること。それから4年後は海外売りのチケットはすべてネット販売になる可能性が高いので、インターネットを使いこなせることが最低条件になるだろう。
 K君もH君も、海外第1次販売分からネット申し込みにももちろん応募。追いかけたいチームの「TST─7F」をまず押さえた。「TST─7F」をゲットできれば、グループリーグ3試合と決勝トーナメントのファイナルまで4試合のチケットを確保できる。
「TST」というのは、「チーム・スペシファイド・チケット=ひとつのチームを追いかけるシリーズチケット」のこと。TSTには2種類あり、「F(フィックスト)」はそのチームが敗退しても勝ち残ったチームを追いかけることができるチケット。「C(コンディショナル)」というのはそのチームが敗退した場合は、そこで観戦打ち切りとなり、残りの試合分は払い戻しになるチケットである。
 日本、イングランド、ブラジル、イタリアなどの人気チームの「TST」シリーズは、販売開始と同時に日本からの申し込みが殺到したため、日本在住者の申し込みは受付け停止になった。
 K君たちもも第一希望の日本のTSTは抽選落ちしたが、セネガル、ポーランドといった人気薄チームの「TST─7F」から狙って、無事、確保した。しかし、セネガルもポーランドも、ファイナルドローの結果、韓国開催枠に割り振られてしまったのが、2人にはやや誤算だった。それでも、H君はセネガルのTSTでフランスの勝ち上がりを、K君はポーランドのTSTでポルトガルの勝ち上がりを狙って観戦日程を組んでいる。
 日本からの申し込みが受け付けてもらえないのなら、海外に住んでいることにして申し込めばと、K君は中国にいる友人宅に、H君はアメリカの友人宅に居候していることにしてネット申し込みをしたのだそうだ。当選確認書が中国やアメリカに届いてから、日本に帰国したことにして住所変更手続きをすれば、チケットは日本の自宅に送られてくる。
 海外2次販売、3次販売でも、こまめにネット申し込みを続けた。H君などはファイナルドローの直前には、21通り分の「TST」シリーズに申し込んですべて当選したというから笑ってしまう。
「当たってしまったら、カード引き落としになっちゃうだろう?」
「だから、最終販売以外はカード引き落としにしないんです。ドローの結果を見て、観たいカードのあるTSTだけ銀行送金すればいいじゃないですか」
「なるほど。送金しないチケットは自動的にキャンセルになるわけだ。でも、同じ名前、住所、アドレスで大量に申し込みすれば、バイロムだって、こいつは怪しいとハネてくるだろう」
「名前に少し細工をすればね。名前のうしろに"kov"とか"ev"とかつけるんですよ。『俊郎コフ』『健太エフ』とか、ロシア人の名前みたいにするわけ。だから21通り申し込んでも、データ上は全部、日本在住の別のロシア人。郵便屋さんにいちど、『これHさん宅でいいんですよね?』と聞かれましたけど。全部、当たりました」
 フ~ム。悪名高いバイロム社の上前をハネたチケット小僧がいたわけだ。
 ただし、大問題が発生していた。
 K君、H君たちの最終ネット申し込み分のチケットが、イギリスから届かなかったのである。自分のチケットだけならまだ問題はないのだが、友人たちから頼まれて確保したチケットをバイロム社に発券させなければならない。2人とも、日本と韓国の開催地を行ったり来たりになるから、事前に発券してもらえないと、友人たちに手渡すことができなくなるのである。
 K君もH君も、日本を発つ直前まで、有楽町に設けられたバイロム社の「W杯チケット・キオスク」に何度も足を運び、ソウルに来てからもソウルのバイロムのオフィスに発券交渉に出かけている。
 バイロム社の発券システムの問題点は、インターネットとコンピューターシステムによるネット販売をうたい文句にしていながら、チケット・キオスクに設置したコンピューター端末からは、ブッキング・データが読みとれない。なぜ、このチケットを発券しないのだとクレームをつけると、ひとつひとつマンチェスターの本社に国際電話を入れて入金確認をしてから発券しているのだという。
 バイロム社のオーナーのひとり、エンリケ・バイロムとは、前日にFIFA総会の会場で久しぶりに会ったばかりだった。
 K君たちのチケットが届いていないことを聞いていたので、「大会が始まるのに、君の会社はなにやってんだ」と話をすると、急ぎのチケットは日本開催のカード分も、ソウルで発券させると弁解する。
 K君は、翌朝、さっそくソウル駅前の「チケット・キオスク」に交渉に出かけたが、事務所の奥に、チケットが山のように積み残されていましたと報告があった。
「あれじゃあ、韓国は相当、売れ残ってますね」
 とK君。
 売れ残りは韓国分だけではなかった。JAWOCの現場スタッフから、日本開催分でも、相当数のキャンセル・チケットが発生しそうだという連絡が入っていた。本来、売れ残ったチケットは、4月末の段階でJAWOCに引き渡される契約だったはずなのだが、売れ残り分もそのままバイロム社の最終ネット販売に回されていたのである。
 H君がやったのと同じように、申し込みだけで入金が来なかったオーダーが大量に発生した可能性が高かった。個人だけでなく、各国FA(協会)のオーダー分で同様のキャンセルが発生すれば、数千枚のチケットが売れ残ることになる。
 貧乏なFAにとって、優先的にチケットを購入できるFA枠チケットの転売は4年に1度の稼ぎ時である。FA枠でオーダーされたチケットがチケットブローカーを通じて、闇市場や旅行代理店に流されるというのがこれまでの闇チケット流通のパターンだったが、最大市場であるヨーロッパや南米の経済不況、初めての極東での大会、物価の高い日本開催、しかもテロ不安による海外旅行の自粛といった理由で需要が減ったうえ、チケットの印刷が大幅に遅れたため、ブローカーたちが現物のチケットを動かす時間が限られてしまった。当てにしていたチケットブローカーからキャンセルされれば、FAもオーダーをキャンセルせざるをえない。
 バイロム社は、3月に、オフィシャル・スポンサー用に押さえていた日本の開催地のホテルを大量にキャンセルするというトラブルを起こしていたが、チケット販売でも苦戦しているのは明らかだった。

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