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W杯アジア予選北朝鮮バンコク開催の裏事情

W杯アジア予選北朝鮮バンコク開催の裏事情
サッカーW杯予選北朝鮮戦に漂う暗雲


(2005/05/24執筆 読売ウィークリー 2005/06/12号)

「ジーコ・ジャパン」が2006年ドイツW杯への出場権を賭けて正念場を迎える対北朝鮮戦。「北朝鮮―イラン」戦で起きた観客暴動のために、平壌からバンコクに開催地が変更され、しかも無観客試合という異例の形で行われる注目のゲームの不安とは……。

「ジーコ・ジャパン」がドイツW杯への出場権を獲得することができるのかどうか。
 サッカーファン注目のアジア2次予選は、6月3日の「バーレーン―日本」戦、6月8日の「北朝鮮―日本」戦のアウェー2連戦を控えて最大の山場に突入する。

 日本代表が戦うグループBは、イランが2勝1引き分けの勝ち点「7」で首位を走り、2勝1敗で勝ち点「6」の日本と、1勝1分1敗で勝ち点「4」のバーレーンがイランを追いかける形になっている。
 グループ2位以内が確定すれば、その時点でドイツ大会への出場が決定する。

「ジーコ・ジャパン」の目下の直接のライバルはバーレーン。バーレーンに勝ち、勝ち点を「9」に伸ばすことができれば、日本の2位以内はほぼ確実。
 対バーレーン戦がドローの場合は、勝ち点差「2」のままとなり、ドイツへの切符は8月17日に同時刻で行われる最終戦「日本―イラン」戦、「バーレーン―北朝鮮」戦が終わるまでお預けになる可能性が大だ。
 もしバーレーンに敗れるようなことがあった場合は、勝ち点でバーレーンに逆転され、自力2位以内が微妙になる。
 もし、Bグループで3位になった場合は、Aグループの3位チームと決定戦を戦い、その勝者が北米カリブ地域の4位チームと、出場権最終枠を争う。

 代表チームはキリン杯で2試合を戦った後、アラブ首長国連邦で最終調整合宿を行い、6月1日にバーレーンのマナマに移動して、対バーレーン戦の必勝を期す構えだ。

 バーレーン、北朝鮮に連勝なら、勝ち点「12」で、その時点で2位以内が確定する。日本サッカー協会は6月8日の北朝鮮戦でドイツ大会出場を決める可能性も十分とみて、バンコクで祝勝パーティーを手配中との情報も入ってきている。
 しかし、日本協会の思惑通りにことが運ぶかどうか。
 もっとも大きな不安要素は、バンコクで行われる北朝鮮戦が予定通りに行われるかどうかだ。核実験疑惑、日本人拉致被害者問題などと同様、不透明感が漂う北朝鮮マターだけに予断は許さない。

厳しすぎたFIFA決定

「中立の第三国での開催」、「観客を入れないクローズド・マッチ」、罰金2万スイスフラン(約180万円)というFIFA(国際サッカー連盟)規律委員会が下した今回の決定は、北朝鮮サッカー協会にとって、外貨獲得のチャンスを奪われる二重に厳しい処分となった。

 ピッチ上に観客席から椅子やガラス瓶が投げ込まれて試合が中断し、あるいは、審判の判定に怒った群衆がチーム・バスを取り巻いたために、審判やイラン選手団がスタジアムを引き揚げることができなくなったという騒動となってしまった以上、北朝鮮サッカー協会になんらかの処分が下されることになったのは当然の処置である。

 しかし、この騒動の対戦当事国であったイラン協会は、3月25日に行われたテヘランでの対日本戦で、圧死者6人、重軽傷多数を出す事故を引き起こしており、同じFIFA規律委でその責任を問われることになっていたため、平壌での対北朝鮮戦のトラブルについては、同規律委に告発していなかった。

 今回の一連の北朝鮮に対するFIFAの処分について、
「北朝鮮―イラン戦のマッチ・コミッショナーのレポートに、セキュリティー面で非常に憂慮すべき報告があり、規律委で裁定せざるをえなかった」(マーカス・ジーグラーFIFA広報室長)というのが、筆者が直接、FIFA幹部に確認したFIFA側の回答だ。

 FIFAやUEFA(ヨーロッパサッカー連盟)は、1980年代以降、ヨーロッパ各国で頻発したフーリガン騒動に対して厳しい処罰を実行することで、サッカー興行の安全開催を実現してきた。

 アジア市場、なかでも中国市場は、今後のテレビ放映権契約や新規スポンサーの獲得などの面で、2010年の北京五輪開催をバネに飛躍的に拡大すると期待されており、サッカーが安全な娯楽であるという印象をアジア地域で定着させることは、FIFAにとって将来的にも重要な戦略課題だった。

 韓国メディアは、平壌での試合実施を不安視した日本協会が、FIFAに試合開催地の変更を働きかけたのではないかと書き立てたが、日本サッカー協会の小倉純二副会長は、
「日本協会は、FIFA側にいっさいそのような働きかけをしたことはない。昨年、中国で行われたアジア選手権での日本叩き騒動を、FIFAの担当者たちも実際に見ているので、今回の厳しい処分で、アジア地域で開催される国際試合でこれ以上、大きなトラブルが発生するのを、未然に食い止めるという意味があったと思う」
 と、日本側の関与を否定している。

 代替開催地も、北朝鮮協会がより受け入れやすいと目されていた中国や韓国ではなく、タイのバンコクが選ばれたのは、FIFAが中国での最近の反日デモの激化を懸念したためと受けとめられている。

北朝鮮協会の財政事情

 FIFA規律委の決定に対して、北朝鮮協会は当然、FIFAアピール委員会に反論上訴するものと予想されていた(規律委の裁定に不服がある場合は、アピール委に再審請求することができる)。しかし、北朝鮮協会は上訴を見送り、沈黙を通している。

 自らの試合運営の不手際を認め、今後の改善策を添えて反論すれば、ふたつの処分のうち、どちらかは軽減される可能性もあったはずなのだが、上訴を見送ったため、規律委の決定が最終処分となった。
 アピール委への上訴には、反論書面とともに供託金を差し入れなければならない。再審議でも敗訴となれば、預けた供託金は没収される。北朝鮮協会が上訴を見送った理由は明らかにされていないが、負けるとわかっている上訴に、わずか3000スイスフラン(約26万円)の供託金といえども、出し渋らざるをえなかったというお家の事情もありそうだ。

 アジア2次予選では、AFC(アジアサッカー連盟)からホームゲーム1試合につき25万米ドルの開催支度金が主催協会に支払われている。北朝鮮協会はAFCから計75万米ドル(約8000万円)の支給を受け、平壌での3試合の開催経費や対戦相手国チームの招へい費用に充当してきた。

 外貨収入に乏しい北朝鮮国内では、75万米ドルというキャッシュの外貨は額面以上に大きな価値を持つ。
 平壌の中産階級世帯の平均月収が1~2万円前後。一般庶民が外貨を手にする機会などありえない世界での75万ドルは、北朝鮮国内でなら、額面の10倍、あるいは20倍の希少価値を持つと考えられるが、すでにその何割かが国家か党上層部に上納されているだろうというのが北朝鮮事情通の見方だ。

 平壌で日本戦が当初の予定通りに開催されていれば、日本からサポーターやプレス関係者ら3000人を受け入れ、1人当たり平均20万円としても合計で6億円の臨時外貨収入をもたらす試合になっていた。北朝鮮協会がそのうち10パーセントをハンドリングするとしても、6000万円前後の臨時収入が見込めたのだが、これがご破算になってしまった。

 バンコクでの代替開催となっても、ルール上、その費用は主催国である北朝鮮協会が負担しなければならない。バンコクへの両チームの移動費と滞在費、スタジアム使用料、警備費用など、ざっと見積もって2000万円前後の出費が見込まれることになるだろう。
 問題は、それだけの予定外の資金が北朝鮮協会内にプールされているのかどうか。FIFA規律委の処分は、財政難に悩む北朝鮮協会にとってはまさに「泣きっ面に蜂」の決定となったのである。

北朝鮮ボイコットの可能性

「ジーコ・ジャパン」苦戦の連続にもかかわらず、W杯予選人気はヒートしっぱなしだ。毎試合のテレビ視聴率は40%を超え、バーレンにも、2000~3000人近い日本人サポーターが「弾丸ツアー」で押しかけると予想されている。

 今後の最大の心配は、バンコクでの代替開催決定で、北朝鮮が予選リーグ途中で棄権する危険性が生じてきたことである。
 バンコク代替開催という最終決定について、北朝鮮政府体育局(体育省)や北朝鮮サッカー協会が論評を出していないのが気がかりなところだ。

 北朝鮮がW杯組織委の最終決定を受け入れ、試合開催に同意するのであれば、なんの問題も起きることはない。
 しかし、FIFAの決定を不服として棄権してしまうようなことになれば、次回2010年W杯予選への出場停止措置や、新たな制裁金が科せられることになる。

 6月3日に同時に行われるバーレーンでの「バーレーン-日本」戦、テヘランでの「イラン-北朝鮮」戦の2試合までは、問題なくアジア2次予選は実施されるだろう。注目されるのはテヘランでのゲームを終えたあと、6月4日に北朝鮮チームが予定通りにバンコク入りするかどうか。北朝鮮は対イラン戦に敗れれば、その時点でグループリーグでの最下位敗退が決定する。実力的にも、ホーム・アドバンテージを考慮しても、テヘランでのゲームでは、イランの勝ちは動かないところだろう。予選敗退が決まってしまった北朝鮮協会に、開催費用を負担してでも消化ゲームを主催する強い意志があるかどうか。

 また、今後、北朝鮮政府当局がFIFA決定を不服として、予選ボイコットといった外交的な揺さぶりをかけてくる可能性は十分にあるだろう。
 日本協会は、北朝鮮が予選途中で棄権してしまうという異常事態は想定していない。
 日本サッカー協会の豊島吉博事務局長は、今後の見通しについて、
「友好パイプに乏しい日朝間で、前回の試合で全国のサッカーファンにも好印象が生まれたところなので、バンコクでの試合をなんとしても友好的に成立させたい。日本協会としては、代表チームの移動や滞在費についてはこちら持ちでやってもいいのではないかと柔軟に考えていく必要があるだろうし、FIFAやAFC、タイ協会にも現実的な対処、協力をお願いする。4チームのリーグ戦だから盛り上がってくれているので。それが3チームではねえ…。そんな事態はなんとか避けたい」
 と、答えている。

 もし、北朝鮮が予選途中で棄権するというような事態が発生した場合は、巨額のテレビ放映権料や広告収入の払い戻しなど、実損害も生じることになる。
 アジア予選のテレビ中継は、地上波ではテレビ朝日が総額90億円という巨額の契約で独占放送しているが、試合不成立ということになってしまえば、数億円相当の払い戻し問題が生じると見られる。
「もしそういう事態になった場合は、なんらかの補償対処が必要になるでしょう。まだなんとも答えようがない」
 と、口をにごすのは予選リーグの放映権を担当する代理店関係者だ。

 費用対効果を考えれば、「無観客試合」という異様な試合形式であっても、試合開催を最優先にして、北朝鮮協会を「予選ボイコット」というような軽はずみな結論に追い込まない現実的な支援が望まれよう。

 最後に、もし、北朝鮮が予選途中で棄権した場合の残りの3チームの順位確定方法。
 最終戦で試合ボイコットが起きたときは、そのゲームのみ没収試合として「3―0」が記録されることになるが、リーグ戦途中での棄権の場合は、該当国のすべての試合が無効となる。

 北朝鮮戦の試合結果はすべて無効となり、日本、イラン、バーレーンの3チーム間のリーグ戦での獲得ポイント、総ゴール・ディファレンス、総得点の順で順位が決定される。
 総ゲーム数が減ってしまうわけだから、残された試合の重要性はますます高まる。
「ジーコ・ジャパン」の自力でのドイツW杯本選出場のためには、6月3日の対バーレーン戦を「引き分け以上」でクリアすることがますます必要になる。

2005/05/24 石川保昌   
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