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【スポバカ】EURO2004 国境へ 最悪の旅

 準決勝まで2日だけ休み。今日はゲームがないという喜び。眠ることができるという喜び。
 最後の4試合、相棒のJが来てくれてなかったら、体がもたなかっただろう。東京からの叩き起こしの電話にも、頭も体も反応しない。
 ゲームを観て、記者会見とミックスゾーンで話を聞いて、宿に戻って朝3時か4時まで原稿を書き、3時間か4時間寝て、駅に出て次の試合に向かう。地獄の16連戦、なんとかこなした。

 昼まで熟睡。
 98年のフランス大会のときから、この2日の休みは、Jと海の見える町で酒を飲むのが続いている。
 こんな酒も魚もうまい国に来て、締切りのない日にしか、酒も飲めぬ悲しさ。
 ポルトだってもちろん海に面しているのだけど、北へ行くことにしていた。
 ビーゴかラ・コルーニャあたりまで遠出。ガリシアへ。
 ビーゴあたりのひなびた漁村でカキやエビやペルセベス(亀の手のようなフジツボ系の貝)を肴に、のんびり海を見ながら酒を飲んで一日、過ごしたい。

 とりあえず国境に向かう列車に乗る。頭はまだ霞をかぶったままの半睡状態。
 国境の町(ヴィアナ・デ・カステラだったか)まであと30分ほどというところで、ガタンッという列車の揺れと車輪の軋む音で起こされる。緊急停車だ。

 運転手が窓の外をなにか叫びながら、列車の後ろへ駆けていった。
 同じ車両に乗っていた車掌と交代の職員が非常ドアを開けて、線路に下りてやはり走っていく。
 事故。なにかを轢いた。あの慌て様では、山羊や羊のはずはない。
 乗客たちが窓を開けて首を突き出して線路の向こうを見ている。

 ベルトにオペラグラスをつけたままだった。鳥を見ようと、旅に出るときは試合のない日もいつも持っている。
 列車から100メートルほど先の線路上に何百羽のカモメの群れが舞い降りている。
 運転士と車掌がカモメを追い払って進む。カモメがサっと飛び上がったあたりに赤い色が見えた。

 鉄道職員が車両に戻ってきて、乗客たちに説明した。十字を切り、首を振る女たち。
 「スーイサイドかい?」
 「ええ、たぶん…」
 職員が携帯電話で警察に連絡を入れる。
 車掌が戻ってきて、毛布とシーツを抱えて、現場に戻っていく。
 運転士も車掌もだれもいないのだもの。列車が動き出すわけはない。
 Jもぼくも線路に下りた。
 陽は高い。線路の両側はトウモロコシ畑。人っこひとりいない痩せこけた緑の畑と牧草地らしき野原が広がっている。
 空だけが青い。雲ひとつない。青い空をカモメの群れが鳴きわめきながら線路上の白い群れをめがけて滑りおりてくる。

「私は物体なのだ」
 長い旅をつづけていると、いつなにがあるかわからないからという気になっている。それはぼくが歳をとったためもあるけれど。体力も注意力もギリギリのところで突っ走っていれば、いつどこで行き倒れるかわからないという覚悟はしておかないといけないのだ。
 別に生き急ごうと思っているわけではないけどね。東京にいて、別にやりたいこともないしさ。
 突っ走れるときは突っ走ってみようと思うだけ。
 でも、そういう生き方って将来のこととか、先になにをしようとか、目算もないから。危なっかしいものさ。

 ばらばらになった骸をカモメが寄ってたかってついばんでいく。
 私は物体なのだ。ついばまれていく物体なのだ。
 突っ走っていたときは私は私であった。走るのをやめたとき、私は物体になる。

 サイレンを鳴らしてパトカーと救急車がやって来て、遺体の回収作業がはじめられた。
 カトリックの国の無神論者の孤独。
 タンカに載せられたシーツでくるまれた物体となった骸。それが私でないという保証などどこにある。
 
 1時間半。空は青い。どこに行くこともできなければ、本を読む気にも、昨日のゲームの話をする気にもなれず。

 酒が飲みたかっただけなんだよ。どうして?
 勘弁してほしいな。人生のことを考えさせられるのは。そんなのまっぴらご免だからサッカー見て遊んでるんだからさあ。
 明日からのこととか将来のこととか考えさせないでくれよ。お願いだから。50を過ぎたオヤジに待ち人もなければ、将来なんてないの。

 ヴィアナ・デ・カステラにたどり着いたが、スペイン側の鉄道組合がストを始めたのだそうで、国境を抜ける列車がない。国境越えのバスは鉄道ストのために、すべて満員。
 一晩、ヴィアナ・デ・カステラに拉致されてしまった。
 なにもない町。「マリスコ(魚料理)」と書いたレストランに入ってみれば、「今日は生憎、魚が手に入らなくて」だって。
 もうサイテー。ちょっとビールを飲んだだけでホテルに戻って寝る。

 ビーゴに出たとしても、帰りのバスの席が取れるかどうかわからず。あきらめてポルトに戻る。
「どうします? またあの列車に乗ってですか…」
「ウン。ちょっと気味が悪いよなあ」
 ポルト行きのバスに運良く2つ席が取れたので、シッポを巻いてポルトに戻る。
 空は青い。カモメが今日も空を飛んでいる。明日は私の番だって。
 勝手にしろ。

2004/06/28 石川とら

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