オールスター戦があったヒューストンからデトロイトへ飛び、デトロイトで「デトロイト・タイガース」戦を2試合見たあと、シアトルに来ています。
ヒューストン、いま考えると死ぬほど暑かったですね。今回の旅では、ポルトガルのファロとヒューストンが昼間、40度を越えました。よくあんな暑いところで大イベントをやるもんだと、こちらのファンの体力に感心しています。
サッカーのアジア選手権が始まった中国の重慶やアテネ五輪も同じくらいの気温と湿度のようですね。応援にいらっしゃる方は、必ず帽子を忘れないでください。それと、気温が体温を超えてしまうような土地では、長袖のざっくりしたシャツにして、肌を陽にさらさないほうが疲れはたまりません。
オールスター戦の翌朝、徹夜で原稿を書き終えてフラフラの状態で朝5時半に空港行のタクシーに飛び乗りました。
そのタクシーの運転手君の話がなかなか刺激的でしたので紹介しておきます。190センチ、100キロはある巨体のお兄ちゃんで、高校時代までバスケットボールをやってたらしい。
「へ~え。わざわざ日本から見に来たって? ベースボールのどこが面白れえんだよ。1日、ちんたらボールが飛んでくるまで待ってるだけなんて、あんなまだるっこしいゲーム、オレたちは見ねえぜ。ベースボールなんてヒスパニックがやるもんだよ。オレたちアフリカ系アメリカ人(本人は「ブラック・アメリカン」と言ってました)が好きなのは、バスケットとフットボール。いつターンオーバーされるかわからない肉弾戦だもんなあ。本当のアスリートはバスケットかフットボールに進むのさ、いまのアメリカでは」
ここまで話すのにテキサスなまりで「ファッキン」と「ユー・ナウ?」を10回くらい連発しながら話す面白いお兄ちゃんでした。
今回のオールスター戦、1回表にア・リーグが大量得点をしたこともあって、全米の視聴率は過去最低の8.8%にまで落ち込んだと、翌日、報道されました。運転手君のいう「オレたちは見ねえぜ」という発言にも一理ある気がします。
オールスター戦でトミー・ラソーダ元ドジャース監督に、
「ドミニカで野球の指導をしてきたパイオニアとして、ヒスパニック系選手の台頭をどう思うか?」
と聞いてみました。
ラソーダ氏は、ドジャースが大リーグではじめてドミニカに設立した野球アカデミーの監督や、ドミニカン・リーグの監督を勤め、ドジャースに優秀なドミニカ人プレーヤーを何人も連れてきた人物です。ついでに書いておくと、現メッツのマイク・ピアザも、3A時代に、ラソーダ監督がドミニカン・ウィンター・リーグに送り込んで大成させた選手のひとりです。
「ドミニカのプレーヤーの水準が現在、いちばん高いのだから、それは仕方ないことだね。いまじゃすべての球団の野球アカデミーがドミニカにそろっているんだから」
「ヒスパニック系の選手ばかりがスターだと、MLBの人気に将来的には陰りが出てくるのではないか? アメリカ本土からスター選手を育成する必要性があるのでは?」
「ウ~ン。アメリカの素質のある少年たちがベースボールを選ぶかどうかが問題だな…」
と答えて、ラソーダ氏は首を振りました。
MLBの各球団は、選手獲得のコストを抑えるために、ドミニカ、プエルトリコ、ベネズエラ、メキシコなどから有望な新人選手を発掘してきました。90年代後半からは、もっとも効率的な選手育成システムとして、ドミニカに野球アカデミーを設立して、選手の発掘から育成までを一貫して行うようになりました。
アメリカ国内の有望な高卒選手は、大学進学を希望するケースが多くなり、運動能力の高い選手だと、フットボールやバスケットボールの選手として有名大学から奨学金を受けて勧誘されますので、野球よりもフットボールやバスケットボールに流出してしまうという事情もありました。
各球団のクラブハウスには、メジャーリーガーは球場内でこういうかっこうをしてはいけないというMLBの服装規定のイラスト付きポスターが貼られています。ぼくが今回、訪ねた4球団とも、スペイン語のポスターが並べてありました。現在のMLBのロースターの45%強が実はヒスパニック系選手で占められているのです。いまやヒスパニック系選手抜きでMLBは成立しない状態にあるわけです。
選手の出身地もそうですが、MLBの経営構想も、アメリカン・パスタイム(アメリカの娯楽)からもう一歩踏み出して、ベースボールをインターナショナルなスポーツとしてファンを増やすことに主眼を移しつつあります。
アメリカ国内のベースボール人気が停滞しているなら、中南米、日本、韓国、台湾など、野球の人気が高い地域にMLBの新しい市場を拡大していこうというのがMLBの戦略でもあります。市場というのはテレビ放映権料であったり、グッズ売り上げ収入ということになります。
MLB全体としてもそうですし、各球団も日本からの広告収入に注目しつつあるといっていいでしょう。
たとえば、この7月からヤンキース・スタジアムのライト・スタンドのフェンスに、日本のある新聞の巨大な広告ボードが取り付けられました。アメリカに購読者がいるわけでもない日本の新聞の漢字の広告ボードが、ライト・オーバーの当りが飛ぶたびに、アメリカのお茶の間に流れます。もちろん、松井秀樹選手がライトにホームランを打てば、必ずこの広告ボードがスポーツ・ニュースとなって日本のテレビに何度も映し出されることになる。
タンパベイ・デビルレイズのドン・ジマー・コーチ(昨年まではヤンキースのコーチだった)がこの巨大な広告ボードを見て、
「あの漢字は見たことがあるぞ。日本の新聞だよな」
と聞くので(ジマー・コーチは現役時代、東映フライヤーズに在籍していましたから、昔の後楽園球場でいつも野球をしていたので、覚えていたそうです)、
「巨人軍の親会社の新聞社だよ」
と答えると、
「おやまあ。NYに読者がいるのかい?ヤンキースはあの広告料だけで、ヒデキ・クラスの選手をまた何人もかき集めることができることだろうよ」
と、大笑いしました。
巨人軍の親会社があの広告ボードにいったいどれだけの金額を払ったのか、ヤンキースの関係者に聞いても、だれも知りません。まだ企業秘密らしい。
アメリカのカメラマンのひとりが、
「写真を撮っていると、あの看板が邪魔なんだよな。ヤンキース・スタジアムじゃない気がしちゃってね」
とこぼしていましたが、いまのところ、アメリカのメディアも表だってこの広告ボードにクレームはつけていない。
20年も昔、日本の企業がエンパイアステートビルやハリウッドの映画産業を買収したときに起きたような日本バッシングにならないのは、「ビジネスになるなら、なにものも拒まない」グローバリズムの時代の賜物かもしれません。
アメリカ国内にいっさい購入者がいない商品の広告ボードでさえ、広告ビジネスにしてしまうのがいまのMLBです。
ベースボールをよりインターナショナル・スポーツとして位置づけるために、MLBのセリグ・コミッショナーは、野球もサッカーやラグビーのように「W杯」を開催するべきだと積極的に発言してきました。
野球W杯開催の最大のネックになると見られていた「ドーピング問題」も、MLB所属の全選手がをドーピング・チェックを受けることで選手会とも合意が成立し、MLBの事務局は2006年開催を目標に、野球W杯の準備に取りかかっています。
オールスター戦でイチロー選手と松井選手に、
「もしW杯開催がいずれ実現化するようだったら、どうしますか?」と 聞いてみたところ、
イチロー選手は、
「ぼくは以前から言っているように、本当の意味での最高のレベルの選手がこぞって参加する大会であれば歓迎します」
との答え。五輪のようにMLBが選手を派遣しない大会には、出場する意味がないというのがイチロー選手の以前からの持論でした。
松井選手は、
「もし、そのような大会が開催されることになって、自分が選ばれたら、もちろん前向きに検討しないといけないと思いますが、それは実際、そのときになって考えたい」
との返事でした。
さて、オールスター戦のあとの観戦してきたカードについて、最後に書いておきます。
「デトロイト・タイガース-NYヤンキース」戦を2試合、見ました。
「タイガース―ヤンキース」戦は、NYですでに2試合見ていたのですが、同行カメラマンの「超タイガース・マニア」シャノン・ヒギンス君のたっての願いで、タイガースの本拠地コメリカ・パークにまた出かけることにしたもの。
2試合の結果は、1試合目はヤンキースが打った5安打がすべてソロ・ホームラン(松井選手の18号、A・ロッドの左右に打ち分けた2本を見ることができました)でヤンキースが「5-1」で勝ち、2試合目はタイガースの軟投左腕マロス投手がヤンキース打線を1安打シャットアウトするという「0-8」のゲームでした。
これでぼくが見た同じカードの4試合、デトロイトの3勝1敗。
昨年、シーズン162試合でわずか43勝しか勝ち星をあげることができなかった弱小デトロイトは、キャッチャーのイバン・ロドリゲスなどの補強効果が出て、今年は7月で昨年の勝ち星をクリアしつつあります。シャノン君もおかげで、機嫌良く写真を撮っています。
現在のMLBというのはこういうものです。毎年最下位のチームだって、本気で補強をすれば、チームの雰囲気はガラリと変わってくる。戦力補強を怠れば、その逆のケース(現在のシアトルがまさにそうですが)も起きてくる。
元気なチームには、ファンも帰ってきます。現在のデトロイト(70年代まで全米最大の自動車産業の都市「モータウン」として栄えたところです)は、失業者が街にあふれ、ゲームが終わって歩いて10分ほどのホテルにさえ、歩いて帰るのはよしなさいと言われるくらい治安もよくありませんが、対ヤンキース戦、チケットは完売になりました。
調子のいいチームのクラブハウスでの取材は、監督も選手も上機嫌でいろんな質問に答えてくれます。
最悪状態のシアトル・マリナーズの5連戦での取材、それを考えると頭が痛い。
(7月19日 午前10時 シアトルが久しぶりに勝って機嫌のいい朝)石川とら
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