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【スポバカ2004】Sports Vacance Deluxe 2004「Sportiva」2

 スーパースターが次々にユニフォームに着替え終えてグラウンドに出ていく。
 取り囲んでいたレポーターたちもお目当ての選手を追いかけてグラウンドに散りはじめ、クラブハウスに少しだけ静寂が戻った。

 ロッカールームの中央にある大きな革張りのソファーに、バリー・ボンズがひとり、バスタオルを頭からかぶったままポツンと座っていた。

 ボンズのまえを通り過ぎようとしたときに偶然、目が遭った。

 ぼくは軽く会釈した。ボンズも目でうなずいた。
 いまなら話を聞いてみてもいいかもしれない。

「バリー、ちょっと聞きたいことがあるんだ。馬鹿な質問かもしれないが、とても単純な疑問だ。君みたいな長い経験のあるビッグ・ネームにとって、オールスターに出るというのはどんな意味があるのかい。ファンへのサービス? 名誉?プライド? オールスターに出ることに、バリー、君はなんらかのモチベーションを持つことができるのかい」

 ボンズはソファーからゆっくり立ち上がると、タオルを肩にかけてこう答えた。
 ボンズはテレビで見て想像していたような大男ではない。

「それは馬鹿な質問じゃないよ。とっても大事なことだ。いいかい、ぼくは1年で1度、この日だけ、自分の好きな奴と(「ブラザー」とボンズは言った)会えるんだ。たとえば、今日、モイセス・アルーと一緒にプレーする。それがなんてハッピーなことかわかるかい。リーグが違ったり、地区も違ってしまって、普段、会えない最高の大好きな奴と最高のレベルのベースボールができる。そんなハッピーなことがほかにあるかい」

 バリー・ボンズはそう答えると、
「そうなのさ。こんな素晴らしいことがあるかい」
 と、彼自身にも言い聞かせるように繰り返しながら、シャワー室に消えた。

 前日、ホームラン・ダービーを3人の息子たちと一緒に見ていたマリアーノ・リベラはこう言った。
「ヤンキースのチームメートがこれだけ多いと、普段の遠征と変わらないんじゃないのかい?」
「いいや、オールスターは全然違うな。オールスターっていうのは、ぼくがリラックスして楽しんでいいゲームだからね。こんな特別なゲームはないんだよ」
 リベラは、ストッパーとしてマウンドに上がってくるときの彼とはまったく別人の、人のよさそうな親父の顔で息子たちと一緒に歓声を挙げていた。

 バリー・ボンズの話を聞いて、イチローが前日の記者会見で話していた言葉の意味がストンと腑に落ちた気がする。

 イチローはこう言った。
「これ以上負けているチームがないような最悪のシーズンですからね。こういうときにでも、ファンの方から選んでもらえたというのは、ぼくにとってはこれまで以上にものすごく意味のある、うれしいオールスターですね」

 イチローはよく「プレーしている人間じゃないと、わかってもらえないかもしれませんけどね」という言い方をする。このときも同じように、最後に一言、「わかってもらえないかもしれませんけどね」とつけくわえた。これまでも、彼のそういうコメントを読むたびにいつもぼくは深読みばかりしてきた。

 オールスターに選ばれるということについてだと、ついイチローのスターとしてのプライドとか名誉とかいうものを重要視してしまいがちになる。でも、本当はそんな面倒に考える話ではないんじゃないかな。
 ボンズが言った、最高のレベルの野球を、最高の仲間たちとできるというプレーヤーとしての最大の幸せ。イチローにだって、それがいちばん大切なことなんだと単純に受け取ればいいのだ。

 ただ、その喜びはファンから選ばれないかぎり、あるいは監督からおまえを選びたいと推薦されないかぎり、味わうことはできない。「選ばれし者」にだけ許される特権である。

      *

 マイク・ピアザ31、ケン・グリフィー・ジュニア30、ランス・バークマン17、ジェイソン・シュミット29、スコット・ローレン27、ジム・トーメ25、バリー・ボンズ25、ミゲール・カブレラ24、ジョニー・エストラダ23、モイセス・アルー18、サミー・ソーサ21、マイク・ローウェル19、トッド・ヘルトン17、ジェフ・ケント12、ポール・ロデューカ16、……。

 ヒューストンのミニッツメイド・パーク。MLB2004年オールスター・ゲームののナショナル・リーグのクラブハウスのロッカールーム。

 選出された32人の錚々たるスーパースターの名前が並ぶ。
 各ロッカーには、「オールスター・ゲーム2004」のイニシャルに、それぞれの背番号と名前が彫り込まれた特製のプレートが取り付けられている。

 ロッカーの配置にもそれなりの理由がある。野手組と投手は別な列。
 アメリカン・リーグのクラブハウスだと、もっとも出場選手が多いNYヤンキースのプレーヤーがゲーリー・シェフィールド、松井秀喜、ジェイソン・ジアンビー、アレックス・ロドリゲス、デレク・ジータとひとかたまりに並び、その隣にジータと仲のよかった元ヤンキースのアルフォンソ・ソリアーノと、その隣は同じ言葉を話す選手のほうがいいだろうということなのか、イバン・ロドリゲスが席を占めている。

 ユニフォームに着替え終わった選手をプレスが取り囲む。

 この日のプレスの優先ターゲットはマイク・ピアザである。ピアザのまわりを2つのテレビ・クルーと10数人の記者が取り巻いている。
 レポーターたちは、ロジャー・クレメンスとバッテリーを組むことになったピアザのとまどいを聞きだそうと手ぐすね引いて待っている。

 クレメンスとピアザの2人が犬猿の仲であることは、ちょっとしたMLBファンならだれでも知っている。

 クレメンスが昨シーズンまで在籍していたヤンキース時代、メッツとのサブウェイ・シリーズでピアザの頭をめがけて放ったブラッシング・ボールや死球。足下に飛んできたピアザの折れたバットをクレメンスがピアザに投げつけた事件。双方の反発コメント……と、話題に事欠かなかった。クレメンスとピアザの間の遺恨は、NYの人気2球団のライバル対決を煽り立てるには格好の事件だった。

 そのクレメンスが一度出した引退表明を翻して今シーズン移籍した先がヒューストン・アストロズである。クレメンスは今年のホーム・ゲーム・チームのエースとして、監督推薦で選ばれ、ピアザもファン投票1位の捕手に選出された以上、犬猿の仲の2人が先発バッテリーを組まなければならない。

 ピアザが次々に投げられる質問に慎重に言葉を選んで答える。
下手に言葉尻を取られて憶測を書かれるのは勘弁してほしいのだろう。同じような皮肉な質問に辟易しながらも、丁寧に答えている。冷静さを失わないのはさすがいいキャッチャーの証明。
「あんなことは別にもう済んだことだし、いまはロジャーもぼくもナ・リーグの一員として選ばれた以上、今日のゲームに勝つために……」
 とピアザが答えていたとき、2重3重に取り囲んでメモを取っている記者団の真上から、大きな腕が下りてきた。

 見上げると、レポーターたちの頭の上にニコニコ笑っているランディ・ジョンソンの顔があった。
「マイク、今日ははじめてだけど、よろしく頼むよな」
 と、ジョンソンが話しはじめる。これで記者たちの質問は打ち切りになった。

 ジョンソンは、レポーターたちに追っかけまわされてナーバスになっているピアザに助け船を出しにやってきたのだ。
 記者たちが散って、ピアザに聞いた。
「ああいうのがオールスターの素敵なところかい? ランディが君のことを心配してくれてたね」
「あんたもいたんだ?」
「ああ、見てたよ。ランディとははじめてだったかい?」
「いやあ、何度もやってるさ。日本でだって」
「そうだよね。ランディが君をリラックスさせたかったんだってすぐわかった」
「ウン。うれしいよね。みんな気をつかってくれるんだ」

      *

 しかし、やはりクレメンスとピアザのコミュニケーションはうまくいかなかった。 
 1回の表、イチローとイバン・ロドリゲスに連続長打を浴びて1点を失ったまでは仕方ない。ウラジミール・ゲレロを打ち取って落ち着いたかなと思ったら、4番マニー・ラミレスにカウント「2-0」から、決め球をなににするかで2人の呼吸が合わなかった。クレメンスはピアザが出したサインに3回、首を振った。あれじゃあ、バッター・イン・ザ・ホールに追い込んだ意味がない。案の定、ラミレスにレフト・スタンドに放りこまれて3失点。

 そのあとがまたいけない。2死1・3塁で8番のアルフォンソ・ソリアーノに甘いスプリットを初球に投げ込んでしまい、3ランを浴びる。
 ア・リーグの1回表の打者一巡の攻撃でゲームは決まってしまった。

 ゲーム後、ソリアーノに聞くと、
「スプリットが真ん中に来たんだ。狙ってたわけでもなんでもない。2アウトでランナーが3塁にいたから、甘いコースなら、どんな球でも打つ気でいたんだ」
 打った瞬間にホームランとわかる、ハンマーでガツンとすくい上げたような当たりだった。

 1回表で「6-0」。しかも、全選手中ファン投票最多得票で選出されたソリアーノの3ラン。
 ぼくには最高の展開。

ソリアーノはこれでMVPに選ばれるかなと思っていたら、案の定、そういうことになる。ゲーム後はソリアーノとソリアーノのママのお抱えカメラマンよろしく記念撮影係をやることになった。
 ソリアーノ、今回の活躍で「元ヤンキースの」という肩書きなど不要なスーパースターのひとりになるだろう。

 ぼくの今回のオールスター戦の注目はドミニカ系選手にあった。両リーグ先発出場18選手のうち、6人がドミニカ系選手。85年だか86年に1度だけ、5人の選手が出場したことがあるが、先発で6人登場というのは長いオールスターの歴史でもはじめてのことだ。

 ソリアーノには昨年のシーズン・オフにドミニカの自宅でたっぷり話を聞かせてもらっていたし(本誌2004年3月号)、その後、A・ロッドとの交換トレードでヤンキースからテキサス・レンジャースに移籍していたが、前日にもその後の話を聞かせてもらっていた。
 ア・リーグはマニー・ラミレスが2ラン、ソリアーノが3ラン、6回表にはダビッド・オルティスが3ラン。ナ・リーグの得点も、1回裏にサミー・ソーサがライト前ヒットで1打点、5回裏にアルバート・プホールズが2打点。
 ア・リーグがあげた9得点のうち8点を、ナ・リーグの4得点のうち3点を叩き出したのが、すべてドミニカ系の強打者たちだった。

「オールスター2004」を総括すれば、ドミニカン・パワーが炸裂したゲームということになる。

 なぜ、彼らがこういう大舞台でも、最高のパフォーマンスを見せることができるのか。
 サミー・ソーサと並んで、ドミニカ系選手たちの兄貴分になるモイセス・アルーはこう答えた。
「われわれドミニカンにとってはベイスボルは水のようなものさ。ドミニカのどの土地にもベイスボルは水のように流れていて、ドミニカンの心を潤しているんだ。ドミニカンのすべての夢はベイスボル。パワー? プランタ(揚げバナナ)をいっぱい食べるからかな?」
 と、最後に冗談を言ったが、前日の打撃練習やミゲール・テハーダがホームラン・ダービーに登場したときも、ドミニカ系のプレーヤーたちは、全員がアルーかサミー・ソーサの回りに集まり、そこだけが異様なハイテンションのスペイン語が飛び交うお祭りの場と化していた。

 ドミニカの選手たちは、スティック・ボールに興じるサント・ドミンゴの少年と同じように、オールスター戦もキャーキャー楽しんでしまう。プレッシャーなんてひとかけらもない。
「あいつが打ったら、おれも打ってやろうって気に自然になるからね」
 と、答えたのはミゲール・テハーダ。

      *

 40度を超える炎暑のヒューストンを逃れて、イチローの5連戦をシアトルでじっくり見るという最大のお楽しみを最後にとっておいたのが正解だった。
 イチロー、ボストン戦で右に左に4安打4盗塁。打っては走り。打っては走り。翌日のオークランド戦でもまたまた4安打。勝てないマリナーズでも、もういいよ。これだけ打ってくれれば。
 イチローを見ているだけでうっとりしてしまう最終の5連戦。

      *

 8月19日、本稿執筆中のギリシャ・ピレウスに日本から緊急メール。
 イチロー、ロイヤルズ戦で頭部に死球を受けて倒れたとのこと。なにもないことを願っている。

(8月19日ピレウスにて)「Sportiva」2004年11月号用 石川とら

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