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サッカーにおいて「突発事態」はなぜ起きるのか?「バルセロナ-アーセナル」戦については、スポニチのワールドサッカー・プラスというところにレポートを書きました。ドイツ大会の間もときどきそちらにコラムを書くことになる予定。
http://www.sponichi.co.jp/wsplus/column_w/06428.htmlファイナル、家に帰ってから録画を楽しみにしてる方もいるかもしれませんね。
そういう方はまずビデオを見てから続きはそのあとで読んでください。
試合開始早々、意外や意外という感じで、アーセナルが決定的チャンスをつかみました。
入っていてもおかしくないアンリのシュートがあった。
開始5分まで、アーセナルは守りだけのチームじゃないぞというところを見せたのだけど。
まず試合開始時点の双方のフォーメーション。

アーセナルのほうは、ジウベルトが4バックスの前にアンカーで入る守備重視の「4-1-4-1」型。守備重視といっても、アンリというストライカーがいるので、中盤からロングパス1本、あるいはリュングベリあたりが間に入ってアンリにつなげば、シュートまでいけるというチームなのです。
バルセロナのほうは、「4-3-3」ですが、こちらもエジミウソンを下がり目でアンカーに置いた形。一発勝負のファイナルですから、要らない失点をしないようにというバランスを考えた形です。
しかし、3トップが、真ん中にロナウジーニョという普段と違う形ですね。
エトーが左、ジュリが右。エトーとジュリが将棋で言う香車の役割をします。スピードのある二人が両サイドをえぐることによって、アーセナルの両サイドバック、アシュリー・コールと、エブーの攻撃参加を封じようというアイデアですね。
それと、ロナウジーニョのボール・キープ力を考えれば、対面にアンカーのジウベルトとその後ろにキャンベル、トーレの強い両センターバックが控えているのだけど、ジウベルトが言ってみればワンボランチみたいになりますから、その両脇が空く。そこをロナウジーニョであれば、ドリブルで衝いたり、ジウベルトを抜いたところでスルーを出して、ジュリかエトーがバックスラインの裏のスペースでシュートまで持って行くことができるだろうという考え方があるように思います。
前半18分のレーマンのレッドカード退場ですが、あれなどはジウベルトの脇を縦スルー一本でエトーに走り込ませたもので、レーマンがペナルティエリアの外で手を使ってしまったのだから、レフェリーとしては、笛を吹いてしまいますね。
ベンゲル監督も、エトーも、ゲーム後の会見で、「笛が吹かれてしまったから」と答えていますが、直後にエトーはドリブルで突破してラストパスをジュリに出していますから、笛が無ければ、ゴールが決まり。それに合わせてレーマンにイエローカードという判定になっていたんじゃないかな。
ヴェンゲル監督にしてみれば、1点取られても、レーマンの退場でGKを交代させられるよりはましだったはずです。
なぜレーマンが退場になってしまうようなファウルをしてしまったかというと、バックスライン4人の前にジウベルトのアンカーという形をどうすれば崩せるかという点で、バルサが的確な戦術を持っていたからなんですね。もちろんロナウジーニョというラストパッサーとエトーという瞬間的な飛び出しのスピードでは世界一のFWがいるからできる攻撃ではありますが。
「4-1-4-1」型というのは、たぶんW杯などでも、決勝トーナメントなどで使ってくるチームが出てくると思います。一昨年のEUROのときには、チェコやギリシャがやっています。
しかし、どんなに攻めても、点が入らないときというのはある。
反対に、エブーが前半2度、攻撃参加したけど、それが見事に決まって、右サイドでFKのチャンスをもらった。
10人のアーセナルにとっては、ああいうセットプレーは本当に生かしたいチャンスですから、こういうのってたまに決まるときあるんだよなあと思っていたら、キャンベルがフリーで決めてしまった。あれはキャンベルをマークしていなかったバルサのミス。
でも、10人の側が1点リードしてしまったら、攻撃はアンリ任せ、もちろんリュングベリやフレブもカウンターのときは攻めにいくけど、攻撃は3人だけ、あとはバルサのカウンターに備えるという気持ちにヴェンゲル監督も選手たちもなってしまいますよね。
これは仕方ない。
ヴェンゲル監督、フラストレーションがたまって仕方のない試合だったと答えていますが、選択肢を奪われた試合というのは、監督にとってはリードしていてもつらい試合だったと思います。
ライカールト監督、早め早めに打つ手を打ってきました。
とにかく1点を追いつかないといけないんだから、後半開始でエジミウソンに代えて攻撃もできるシュートも積極的に打つイニエスタを入れます。
後半61分には、ファン・ボメルに代えてラーションを投入。
バルサにとって今季のチャンピオンズリーグの第一関門であったチェルシー戦の第1戦でも(あの試合もチェルシーが10人だった)同点の直後、ラーションを入れて追加点を挙げています。
また、71分には、右サイドバックをオレグエルから攻撃参加ができるベレッティに代えました。
ライカールト監督の判断、的確です。時間的にも焦らないですむ時間のうちに打つ手をすべて打った。采配、見事です。

2つのゴールをアシストしたラーションについて、「交代時に話をして(指示をしたではなく、ディスカッスしたと)そのとおりの仕事をやってくれた」と言っていますが、2本のアシストをしたラーションの位置取り、エトーへの優しいパス、ベテランの味があるなあ。
キャンベルとトーレ、プレミアを代表する強いセンターバック・コンビですから、正面から行っても割れない。そこを脇からめくりあげるような刃先の役をラーションがしたわけです。ラーションがポストプレーをしたところへ、エトーが、あるいはベレッティが走り込んでくるという、これは日頃の練習のときからオプションで決めてあるコンビネーション・プレーだったと思います。
ヴェンゲル監督に、「今日は負けだと覚悟したのは後半のいつだったか?」と聞きました。
「バルサの2点目が入って、もううちの選手たちがボールを奪おうにも足が効かなくなったときに、バルサの勝利を受け入れざるをえなかった」
と答えています。86分くらいのときですね。
アンリのあのシュート(後半70分)が決まっていれば、「2-0」でアーセナルのゲームになっていたかもしれない。
「もし……であったなら、どうなっていたかもしれない」という局面がとても多かったゲームだったという点では、チャンピオンズリーグのファイナルにふさわしいゲームだったと思います。
決勝トーナメント1回戦のチェルシー戦もそうでしたが、この試合もレッドカード退場が出てしまったゲームになり、結果的にはチェルシーと同様、アーセナルも「1-0」から最後には逆転負けしたのですが、レッドカード退場を引き出したのはバルサの多彩な攻撃力だった。
バルサ、いいチームです。来シーズンにはたぶんアンリも加わってくるでしょう。
そして、12月には日本に世界クラブチャンピオンズ選手権のためにやって来ます。
楽しみですね。
ライカールト監督、勝利後の記者会見でも、うれしさを爆発させたりすることなく、淡々と質問に答えるだけでしたが、「おめでとう。日本へようこそ」と声をかけて聞いたら、やっと笑顔になりました。
――長いチャンピオンズリーグのなかで、どの試合、どのラウンドがいちばん印象的か、また重要だったか? 今日のゲームか? それともチェルシー戦か?
「そりゃあ、今日さ。今日の試合に勝ったこと以上にうれしいことはない」
と答えて、会見場を後にしました。
2006/05/18 パリより石川。あと4時間ほどでクロアチアに移動です。またね。
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ベルカンプのラストマッチでもあったんですよね。
レーマンが退場にならなければ可能性もあっただろうに、残念です。
とらさん、ベルカンプ情報はないですか?