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ポスティングが脅かす日本野球の未来

 松坂大輔投手(26)のポスティング移籍金「60億円」の大盤振る舞いに引き続いて、11月29日には、NYヤンキースが阪神の井川慶投手(27)に対して2600万194ドル(約30億1000万円)の移籍金で単独交渉権を獲得した。

 レッドソックスが応札した巨額の「松坂マネー」が、メジャーの移籍金相場を押し上げた。先発左腕として「5年連続2ケタ勝利、セ・リーグの奪三振王」という実績のある井川に対してこの金額が提示されたのは決して不思議ではない。

 契約交渉がまとまるまでまだ時間はかかるが、日本の若き両エースが同じアメリカン・リーグ東地区の宿命のライバル、ボストンとNYのマウンドに立って投げ合うことになるはずだ。
 ヤンキースには「ゴジラ」松井秀喜がおり、また、ヤクルトからは岩村明憲内野手(27)が同じア・リーグ東地区のデビルレイズに移籍する。ア・リーグにはイチローや城島もいるから、「松坂-松井」「松坂-イチロー」対決ばかりか、「井川-イチロー」対決に「松坂-井川」のフレッシュ対決まで期待できることになるとは。

 今回の松坂、井川、岩村の3選手のポスティング移籍金だけで、メジャーリーグから合計100億円近い投資が行われる。
「ベースボール。スポーツと呼ぶにはあまりにビジネスであり、ビジネスと呼ぶにはあまりにスポーツであるやっかいなもの」
 ――という名言を吐いたのはシカゴ・カブスのオーナーだったP・K・リグレイだ。
「投資」という巨大なアメリカン・ビジネスが日本球界を呑み込みつつある。

 松坂大輔(26)の大リーグへの移籍単独交渉権を得るためだけで5111万ドル(60億円)もの巨額のオファーを出したレッドソックス。60億円を受け取るのは所属球団であり、松坂投手には、4年から6年の複数年契約で総額40~60億円前後の契約金が別途支払われる。日本のプロスポーツ選手としては、空前絶後の移籍契約であることは間違いない。

 2003年7月にデビッド・ベッカムがマンチェスター・ユナイテッドからレアル・マドリードに移籍した際に支払われた移籍金が日本円にして約49億円。ベッカム自身の契約金は4年契約24億円だった。
 移籍について世界統一ルールが設けられているサッカー界では、スーパースターの移籍はめずらしいことではない。2001年にジダンがユベントスからレアル・マドリードに移籍した際の移籍金81億円。これが過去最高額。
 日本選手の移籍金では、2001年にASローマからACパルマ(ともにイタリア・セリエA)に移籍した際の中田英寿の32億円。松坂の移籍金はほぼその2倍になる。

 ちなみに2005年にソフトバンクがホークスを買収した際の球団価格が50億円。松坂ひとりの移籍金で「王ジャパン」の4番松中信彦や沢村賞投手の斉藤和巳がいるチームを買い取ることができたなんて。

 西武がポスティング移籍を認めた日に、松坂大輔から直接、話を聞く機会があった。
「球団からも、チームの仲間からも、ファンからも笑顔で送り出してもらえるのがなにより。自由に海外へ移籍できるサッカーの世界がずっとうらやましかった。やっとかないます。どこに決まるかはドラフトのときと同じで、ぼくに選択権はありませんから。どの球団になってもいい。メジャーという新しい舞台に立てるのなら」
 とあの「松坂スマイル」で素直に喜んでいた。

 彼自身にとっても、レッドソックスの60億円という超巨額の応札は驚き以外のなにものでもなかっただろう。
「日本球界のエース」がこれほどまでの高評価をされたことは野球ファンのひとりとして喜びたいところではある。しかし、喜んでばかりはいられない。
 松坂がいなくなった所沢まで、たとえば「西武-オリックス」戦に、往復4時間をかけてぼくは足を運ぶだろうか。
 イチローがシアトルに移籍してから、それまで年に40試合は出かけていたオリックス戦をほとんど見にいかなくなった。
 本気で投げ込む松坂大輔をナマで見たければ、アメリカに出かけるしかなくなるというさみしさ。ファンの気持ちはそれにつきるのではなかろうか。

 西武ライオンズは松坂大輔が遺していく移籍金で一時、潤う。球団経営の赤字は年20億と言われているから、松坂大輔を売った金でライオンズの3年分の赤字がチャラになる勘定だ。
 しかし、パ・リーグのファンは、松坂が先発したであろう25から30試合の野球を見る醍醐味を失ってしまうのである。

 今年は、ポスティング移籍で井川慶投手と岩村明憲内野手が移籍する。
 岩村明憲は通算打率3割、2004年にはホームラン44本を放った、「3割30本100打点」を狙える強打の内野手だ。2004年の日米野球での活躍でメジャー側からも注目され、WBCの際にも、「メジャーで則レギュラーで通用する」と高評価されてきた。岩村の落札額は外電は450万ドル(約5億3000万円)と伝えている。

 ポスティング・システムによって移籍する3選手は、両リーグを代表するスター・プレーヤーであり、チームの投打の柱である。当然のことながら、FA権を取得する以前の移籍だ。

 現在、メジャーリーグで活躍する日本人選手のうち、田口壮(2001年・オリックス→カーディナルス)、松井秀喜(2002年・巨人→ヤンキース)、城島健司(2005年・ソフトバンク→マリナース)らはFA権取得後の移籍。
 ポスティング・システムによる移籍はイチロー(2000年・オリックス→マリナーズ)、大塚晶文(2003年・中日→パドレス)らがいるが、10億円を超える移籍料が支払われたのは、過去、イチロー(約14億円)と石井一久投手(2002年・ヤクルト→ドジャース・約13億円)の2人だけ。

 松坂、井川、岩村の3選手に共通するのは、少しでも若い年齢でのメジャー移籍を数年前から球団に訴えてきたこと。
 95年、近鉄を任意引退して日本球界を去った野茂英雄がドジャースで力投する姿を見たのは松坂が中学3年。井川と岩村は高校に入学したばかりの野球少年だった。3人とも野茂の衛星中継を目に焼きつけるようにして野球に励んだ世代である。

「松坂世代」以後の素質ある選手は、野茂やイチロー、松井秀喜らを目標に、いつか自分もメジャーでプレーをと志して野球に取り組む。
 球団側はできればFA権取得の1シーズン前まで球団に残ってほしいと説得する。しかし、説得が不調に終わると、もう1シーズン待って、自分の好きな球団と交渉できるFA権取得後の移籍を選択しますという選手も出てくる。
 西武からメッツに移籍した松井稼頭央などはその例。FA後移籍になった結果、球団には1銭の移籍金も入らなかった。

 メジャー側がすぐにでも買いたいスター選手ほど、FA権取得の2シーズン前にポスティング・システムで売りに出すという手法は、今後ますます既成事実化していくだろう。
 日本のプロ野球から若手バリバリのスターが消えていく。日本球界の「メジャーリーグのマイナー」化現象はとっくに顕在化しているのだ。

 11月15日に開催されたプロ野球オーナー会議は、3人の若手スター選手が日本球界から消えていくことについて、討議対象にすらしなかった。
 メジャーの巨額投資のまえに口をつぐんだまま。西武の「松坂マネー」をうらやましげに指をくわえて見ているだけ。

 FA権取得以前の移籍になんらかの歯止めを設けるルール作りが急がれよう。スター選手をメジャーに売りに出して、その球団は利益を出すかもしれないが、リーグの人気は将来的には低迷する。
 将来的には、ポスティング・システムによる利益金から、リーグの人気挽回のために一定割合をリーグに還元させるような制度も必要だろう。

2006年11月29日 石川とら 「読売ウィークリー」2006年12月17日号


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