ヤタ、巣立つ。「お父さん、ヤタがいないよ」
散歩から帰ってきたヨメさんの声。
「桜のなかにいない?」
「いない。どっかへ飛んでっちゃったのかしら」
「ヤター、ヤター、ヤター」 # 悪ガラス小弥太
ヤタは突然、いなくなった。
飛行訓練を始めたといっても、50mも飛んだことはない。
近所にいるはずだと、自転車で路地から路地を「ヤター、ヤター」と呼びながら、走って回った。
カラスが隠れそうな茂み、公園、探し回る。まだ、一人で餌探しができるとは思えないのだ。
「迷い犬」「迷い猫」みたいにポスターを貼りたいけど、「迷いカラス」じゃ、探しようがない。
朝夕の小太の散歩で、二人して「ヤター」「ヤター」と探し歩く。
ヤタは戻ってこない。心配だけど、ヤタは巣立ったのだ。
「巣立つって、ああいう具合に突然、やって来るもんなのかなあ」
「わからん。普通は、もう少し、飛べるようになってからじゃないのかなあ」
「この間から、カラスがヤタを脅しに来てたのは知ってた?」
「あのつがいの縄張りガラスかい?」
「ウン。この間から桜の木の脇まで飛んできてたのよね。あいつらに追い出されたんじゃないかなあ」
住宅地に棲むカラスは、群れになっている若ガラスでなければ、つがいの縄張りガラスである。
縄張りは場所にもよるが、縦横100mから200mくらいのエリア。
生ゴミの集積所がその間に5~6か所くらいあれば、つがいのカラスが生きていくことができるんじゃないだろうか。
うちから70mほどのところの電信柱の上で、そのつがいのカラスは毎朝、自分たちの縄張りを見張っていた。
にぎやかに鳴くヤタの声を聞いていたはずだから、うちに若ガラスがいることも知っていたはずだ。
路地を低空飛行するカラスを、ぼくも何度か見かけていた。
カラスの敵はカラスである。
たぶん、彼女が推理したとおりだろう。
「よかったと思うことにしょうよ。いずれは野生に返さないといけなかったんだから」
あれだけうるさかったのがいなくなってホッとしたのが半分、さみしさ半分。
いや、さみしさのほうがずっと大きかった。しばらくとはいえ、家族だったんだもの。
いらなくなったケージを片付ける。
「もうカラスは拾わないようにしようね」
「ウン。絶対に」
二人とも泣いていた。 ……→つづく。
■追記(FaceBook連載のときのコメント)
Tra Ishikawa:の敵は同じ種類の鳥なんだということ。
昨年、四国に住む高校の先輩、「漁師さん」が庭でモズのヒナを拾った。
漁師さんのうちは古い農家で、庭にモズが毎年、巣をつくるんだそうで、その巣から落ちたヒナだった。
ときどき、そのヒナが漁師さんご夫妻に甘える写真を見せてもらっていたので、昨秋、田舎に帰ったときに対面してきた。
カラス以上に野鳥というイメージが強いモズだが、うちの中を飛び回り、漁師さんから大好物の餌のコオロギをもらって
大喜びするモズちゃんであった。
モズの場合は、雌雄で羽根の色や模様が違う。モズちゃんは女のコであることがわかったが。
新年になって、漁師さんから「モズちゃん便り」が来ないので、心配で連絡してみると、
「裏庭に出して遊んでいるときに家の周りを縄張りにしている雄(たぶん父親)に追いかけられて遠くに行ってしまったまま
帰宅せず。自然に帰ったと思えばこれでよかったのかも…ちょと寂しい毎日です」との返事。
縄張りを持つ鳥の場合、親娘であっても関係なく、よそ者は縄張りから追い出す。
また、血族の場合は、近親交配を避けるためにも、余計に縄張り遠く追い出すというメカニズムが働くのではないだろうか。
大重:そう言えば思い出したんですが、去年の11月に修善寺から天城山行きのバスに乗ったとき、ハシボソガラスを連れた登山客に出会いました。足ヒモで飛ばないようにはしてましたけど、寝袋のマットを止まり木のようにしてましたね。
Tra Ishikawa::ハシボソは都会から追われて田舎中心ですから、育てる気なら、他人目気にしないで飼うことができるでしょう。他の人に迷惑かけないかどうかです。頭はハシブトのほうがよさそう。気性もハシブトのほうが荒っぽいかな。上野公園なんかには、ハシブト飼っているオジさんよくいましたね。
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