ヤタ、帰る。 ヤタがいなくなって、空を見上げて歩くようになった。
カラスが飛んでいるのを見ると、ヤタではないかと駆け出したし、
電信柱にとまっているカラスを見れば、声をかけた。
ヤタじゃないカラスは呼びかけてもそっぽを向いて「カア」と鳴くだけ。
ヤタが話したカラス語には、ヤタなりの感情がこもっていたことに
初めて気がついた。 # 悪ガラス小弥太
「お父さん、お父さん、鈴木さんちに飛んでくるカラスがいるんだって。
ひょっとしたら、ヤタかもしれないから。私、ちょっと見てくるわ」
ヤタがいなくなって10日くらい。駅前のスーパーで久しぶりに会った鈴木さん(娘の中学のPTA仲間)から新情報。
鈴木さんちのベランダに最近、飛んでくるカラスがいるんだそうだ。
「人に飼われてたんじゃないかなあ。お布団干そうと思って、あっちへ行きなさいと手を上げても、逃げないのよ。
片足、ちょっとケガしてるみたいなんだ」
「エーッ。うちのコかしら」
出かけてみれば、やはりヤタだった。
鈴木さんちのベランダの向かいの屋根にとまっていた。
ヨメさんが「ヤター」と呼ぶと、泣きそうな顔して、肩に飛び乗ってきたそうだ。
「ごめんネー。うちのコだわ」
ヨメさん、ヤタの首をひっつかんで、飛んで戻ってきた。
ケージを組み立てる脇で、ヤタは「グル・グル・グヮッ・グワ」と美味しそうにキャット・フードを食べている。
小太兄も、リンも、大騒ぎすることなく、ヤタのおこぼれをもらっている。
人に育てられたカラスを、都会で自然に戻すということは、どう考えても無理だった。
若ガラスの群れと出会う以前に、親切にしてくれそうな人間に頼ってしまう。
ヤタは人に寄生して生きることしかできない「野生ではないカラス」なのだ。
ヤタが帰ってきたこと、それ自体はうれしいことだった。
しかし、この先、いつまで「人間3匹、犬猫3匹+ヤタ」という生活を続けていくことができるんだろうか。
大きな悩みを抱えたまま、秋から冬へと季節は過ぎた。
そして、ヤタは幼鳥ではない、若ガラスに成長した。 ……→つづく。
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