「ヤターッ! カムバック」その夕暮れ、別荘から500mほど離れたところだったか。
カラスの群れに会った。何十派もいる若ガラスの群れだった。
ヤタが飛んでいった群れだかどうだかはわからないけど、
つい「ヤターッ」って、呼んでしまった。
その先の梢から1羽のカラスがぼくの胸に飛び込んできた。ヤタだ。 # 悪ガラス小弥太
ヤタはぼくを見つけて大喜びだった。
「ギャッグゥルワ、グワ」と大騒ぎしながら、ぼくの耳をあま噛みして甘えた。
ダメだ。こいつを野生に戻すなんてのは無理だ。
ヤタを抱いて、別荘地の散歩道を早足で戻る。
背中を何十羽というカラスたちが追いかけてきた。まるでヒチコックの「鳥」。
「どうしたの?」
「ヤタがぼくを見つけて飛んできちゃったんだ」
「ダメよ。連れて戻っちゃあ」「周り、全部、カラスよ」
「あいつら、ぼくがヤタを捕まえたって勘違いしてるんだよ」
「あなたが連れて帰るからでしょ」
「そんなこと言ったって、こいつはうちで育ったんだから、あいつらと合わなくても仕方ないだろ」
「やっとカラスの群れに入れてもらったっていうのに、どうするつもりよ」
若ガラスの群れは、夜になっても、別荘の周りを取り巻いて「グワ、グワ」と鳴きつづけていた。
ヤタをケージの扉を開けたままで表に出しておくことにした。
ヤタは、ケージのなかでキャット・フードをガツガツ食べる。
ケージの底にしたばかりのヤタの糞を見ると、昆虫やクモを食べていたようだ。
お前、こんなんで生きていけるのか。
若ガラスたちは一晩中、ヤタが解放されるのを待ち受けていた。
夜がうっすら明けはじめたころ、ヤタはケージの外に出て、二度、三度、翼をふるわせてから、群れに戻っていった。
カーテンの隙間から、ヤタが飛び立つのを見送った。
あれから16年、ぼくはヤタを見ていない。<完>。……→あとがきへつづく。
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